6.カキ礁形成とカキ化石の進化

現世および化石カキ礁の形成過程から解明する古環境と,汽水生二枚貝カキ類の中生代後期以降の進化と古生態変遷

(キーワード:カキ,汽水生二枚貝,古生態,進化,白亜紀,新生代,海面変動)

概要: 白亜紀から現在に至る汽水域にしばしば発達する二枚貝カキ類の生物礁を対象に,カキ類の進化や古生態変遷,そしてカキ礁の発達様式や海面変動との関係をモデル化する.

基盤研究(B) 現世および化石カキ礁の形成過程から解明する古環境とカキ類の古生態変遷(研究代表者:平成22-24年度)

論文・報告: A-27, 37, B論文14, 15, 18

上部白亜系久慈層群玉川層の大露頭.厚く発達する砂質~砂泥質エスチュアリー相に数枚のカキ化石密集層が含まれる.岩手県九戸郡野田村野田玉川海岸 カキ化石密集層の地層断面連続写真.久慈層群玉川層 
カキ化石密集層.久慈層群玉川層 カキ化石(Crassostrea sp.)密集層上面観.久慈層群玉川層
第四系更新統見和層のマガキ (Crassostrea gigas) 化石密集層断面.茨城県かすみがうら市崎浜(横山ほか,2004) 北海道厚岸町厚岸湖全景の空中写真(厚岸印刷塩野氏提供).潮汐平底三角洲には1980年代初頭までは,潮汐平底三角洲にマガキ礁が発達していた.
北海道東部白糠町―釧路市の馬主来(パシクル)沼のマガキ化石密集層.縄文海進中期~最盛期に自生していた. 千葉県館山市のカキツバタカキ化石礁

2011年 馬主来(パシクル)沼でのトレンチ調査

8月9日~15日

北海道釧路市音別町と白糠町にまたがる馬主来(パシクル)沼の完新世のカキ礁について調査を行いました.白糠町側の湖畔で,重機を使って計5つのトレンチを掘削し,その断面を詳しく観察・記載しました.

また,8月11・12日には共同研究者でもある産業技術総合研究所の七山太主任研究員によって,地元住民を対象とした「化石カキ礁と巨大津波痕跡を巡る観察会」と講演会が開かれました.その時の様子は,白糠町広報釧路新聞でも紹介されています.

 

重機をつかってトレンチを掘削している様子. 断面に見えるカキ礁と堆積物の特徴を詳しく観察.

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2012年 八代海南部のカキツバタ礁の調査

 八代海南部,鹿児島県出水市の西北西方沖合約10kmの水深30~40mの平坦な海域に発達する,直径約50m,高さ約5mの半ドーム状の高まりの密集帯(大曽根マウンド群)について,次のような目的で調査を行いました.

  1. 音響測深器によって,マウンド地形の分布と周囲の海底地形との関係などを正確に把握する.
  2. 音響地下探査機において,マウンド内部を含めた海底下の地質構造を探査する.
  3. アクセスしやすいマウンドについて潜水調査で,マウンドの形態と周囲の海底との関係を把握する.
  4. マウンドを構成する二枚貝カキツバタガキ(Hyotissa imbricata)の生態や底生生物相を解明する.
  5. マウンド群はすべてカキツバタ礁なのかを明らかにし,その成因や形成過程を復元する.

 

5月31日~6月8日

 熊本大学の実習船ドルフィンに艤装した,サイドスキャン音響測深器と高分解能音波探査機によって,精密海底地形マッピングと海底地質構造探査を行いました.今回は,出水沖西北西約10km付近にある大曽根マウンド群の南半部をカバーする,南東側(陸側)の37個のマウンドを含む,深度0.25m間隔の海底地形図が作成できました.これによって,平坦な海底に分布するマウンド群のサイズ・形態と分布様式を詳細に把握できました.音波探査による海底下20m以浅の地下構造を示す反射波解析像を取得し,マウンド群の分布が布田川—日奈久断層帯やそれと直交する活断層群に規制されている可能性が示唆されることも判明しました.東海大のROV(遠隔無人探査機:QI社製Delta-150)による底質ビデオ撮影も行いましたが,潮流が強く数分程度を撮影できたに過ぎなかったとはいえ,条件さえ整えばカキマウンドと周囲の底質の様子が詳細に観察できることが判明しました.また,簡易グラブサンプラーによって底質試料やカキツバタカキの遺骸殻を採取しました.

 

写真1 熊本大学実習船ドルフィン(沿岸域環境科学教育研究センター 合津マリンセンター).鹿児島県出水市米之津港 写真2 船内の音響測深器の観測モニター,GPS測位モニター

 

6月18-19日,7月25日

 大曽根マウンド群南端部の代表的なマウンド1ヶ所について,潜水調査を行い,マウンド表面の様子や底生生物相の実態について目視観察とビデオ撮影を行い,カキツバタ標本や底質試料を採取しました.ダイバーによって,6/18と7/25に,水深約30m前後の海底を20-30分潜水する調査が,それぞれ1,2回ずつ計3回行われました.AUV(自律型無人潜水機:ハフミンド社GAVIA)による潜水調査は時間と天候により断念しましたが,今後の再調査の可能性と課題を確認しました.
 マウンド表面は,カキツバタガキ(Hyotissa imbricata)の貝殻質底と含貝殻片泥質砂底をなしており,全体を有機質デトリタス質泥が薄く覆っていることが確認されました.貝殻質底はカキツバタの中〜大型個体(殻高8-15cm)の死殻を主体とし,殻上面にカキツバタの生貝が少数固着していました.単独の横臥個体も少なくないが,数個体の固着塊をなすものがあり,リレー型戦略を示す個体も認められました.しかし,固着塊は散在的で,マガキ礁のような密な枠組みを作ってはいませんでした.海底を掘り下げ,突き棒で差した具合から,少なくとも海底下1mまでは貝殻質未固結堆積物と予想されました.一方,マウンド周縁は貝殻底から底質が急変し,含貝殻片砂質泥底になっており,生物相も急に貧弱になっていました.したがって,マウンドは周辺よりも生物多様性の高い,多くの底生生物の付着・固着基盤あるいは生息場となっており,カキツバタ礁と呼べる構造物と考えられますが,これほど大規模な礁はこれまで少なくとも日本近海では知られていません.その形成過程については,今後の研究で解明していくことになります.

写真3 マウンド表面の底生生物相ビデオ撮影・試料採取のための,ダイバーによる潜水調査 写真4 カキツバタカキ殻に覆われたマウンド表面50cm方形枠の様子

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