2015年8月16-18日:IGCP608第3回国際研究集会(中国・瀋陽)が盛会裏に終了

2015年8月16日(日)~18日(火)に,安藤教授がリーダーを務めるIGCP(地質科学国際研究計画)608(2013-2017年)の,第3回国際研究集会「白亜紀のアジア-西太平洋地域の生態系システムと環境変動」が,中国の瀋陽市遼寧大夏ホテルで盛大にして成功裏に行われました(写真1).
その模様はIGCP608のホームページで紹介されています.

また,日本地質学会ニュースにも報告記事として紹介されています.

MTE-12シンポジウム
 今回のシンポジウムは,第12回中生代陸生生態系シンポジウム (MTE-12: The 12th International Symposium on Mesozoic Terrestrial Paleoecosystems) に加わる形で行われ,瀋陽師範大学,遼寧古生物博物館,南京地質古生物研究所,中国地質大学,吉林大学が開催母体となりました.IGCP608第3回国際シンポジウム実行委員会(委員長:李国彪 中国地質大)がサポートをしながらも,実質的な運営はSun Ge(孫革:遼寧古生物博物館館長)氏が委員長を務めるMTE-12実行委員会が担いました.
 ホスト役を務めたSun Ge氏は,世界最古の被子植物化石を下部白亜系の熱河層群から発見したことで知られており,これまでも各種の国際的な会議を主催して,遼寧省や中国の古生物学の発展に寄与していることで日本でも知られています.
 MTE (Symposium on Mesozoic Terrestrial Ecosystems) は,3年おきに開催されてきた30年の歴史のある,地質・古生物系の比較的インフォーマルな国際集会で,2009年はスペインで,2012年は韓国光州で行われました.次回は2018年夏にドイツのボン大学で行われる予定となっています.
 シンポジウムはLiaoning Mansion Hotel (遼寧大夏)という風格のあるホテルの1階会議場と7階の3つの会議室および廊下で行われました.これには,海外77名,中国69名の計146名の登録参加者があり,実行委員会のスタッフを合わせると約160名を超える盛況でした.参加国は中国を含め16か国におよび,女性48名,学生31名を数えました.黒竜江省の白亜紀-古第三紀境界付近の層序・古生物研究で,Sun Ge氏らとの共同研究実績があるロシアからは総勢23人が集っていました.日本からは13名でした.内訳は以下の通りです.
China: 69; インド: 10; 日本: 13; 韓国:9;マレーシア: 1; モンゴル: 2; パキスタン: 1; フィリピン: 3; ロシア: 23; オーストリア: 1; ベルギー: 2; フランス: 1; ドイツ: 3; ニュージーランド: 1; 英国: 4; 米国: 3

(1)開会式と基調講演
 初日午前は,MTE-12の開会式と基調講演4件が1階の大会議場で行われました(写真2).開会式には,恐竜研究で日本でもよく知られた周忠和(中国科学院古脊椎動物・古人類研究所,国際古生物学連合会長)氏の開会の辞の後,瀋陽師範大学長,遼寧省国土資源庁副所長,次期MTE-13主催者のMarin T.氏らが挨拶しました.安藤教授も共催団体のIGCP608のリーダーとして,挨拶をしました(写真3).

(2)セッション
 1日目午後から3日目午前にかけてのセッションは,IGCP608のWorkshopであるM-7を含め,下記のように 7つが実施され,計77件の口頭発表が行われました.当初提案9セッションのうち,類似した4つは2つに統合されました.
    M-1 Biodiversity of the Mesozoic terrestrial ecosystems (口頭7件)
    M-2, 3 Mesozoic geology and environmental changes (15件)
    M-4, 8 Mesozoic evolution of vertebrates and origin of Aves (16件)
    M-5 Mesozoic plants and their diversity (20件)
    M-6 Mesozoic climatic and environmental changes (5件)
    M-7 Cretaceous ecosystem in Asia and Pacific (Workshop of IGCP 608) (4件)
    M-9 Mesozoic fossil footprints (10件)
 それぞれのセッションは,2つもしくは3つが並行して,さほど大きくない会議室で行われ,30-40人ほどの分野の近い研究者が参加する和やかな雰囲気となりました.大学院学生や若手研究者の発表もいくつかあり,通常の国際学会よりはインフォーマルでした.M4, 8の古脊椎動物セッションの発表が多いのはMTEの特徴ですが,M-5古植物セッションが一番大きくなったのは,古植物学の重鎮であるSun Ge氏によるところが大きいでしょう.
 IGCP608の主催するM-7(写真4)は発表が4件という小さなセッションでしたが,これはIGCP608の次期開催地の決定やプロジェクトの計画等の討論を含めて,3日目の午前中に収めるために短いセッションとしたことと,全参加者の1/3に達するIGCP608メンバーの多くは関連する分野のセッションに分かれて発表していたためです.

口頭発表 Aug. 18 am
M-7 Cretaceous Ecosystem in Asia and Pacific (Workshop of IGCP 608)
Conveners: Wan X.Q., Ando H. and Li G.B.

08:30-09:00 Ando H. (Keynote 1) ---------------------------------------------------------- M7-01
Cretaceous stratal records: stratigraphic successions, facies and biofacies in Japanese Islands

(3)ポスターセッション
 35件のポスターは,休憩場所でもある7階の廊下に3日間掲示したまま,休憩時間や空き時間に随時,発表質疑が行われました.そのうち9件は中・日・韓・マレーシア・ベルギーの大学院学生の発表でした.

(4)M-7セッション後の討論
 IGCP608のワークショップとして行われたM-7セッション最後の1時間半ほどの時間で,2016年の第4回および2017年の第5回研究集会の日程等が議論されました.次回のシンポジウムは,ロシア西シベリアにあるノボシビルスクのTrofimuk Institute of Petroleum Geology and Geophysicsで,Boris Shurygin教授をホストとして行われることになりました.8月15-17日がシンポジウム,巡検が8月18-20日で,Kemerovo地域やShestakovo地域の恐竜化石を含む上部白亜系を中心として行われるとの紹介がありました.第1回Circularは本年12月頃に配布されることになっています.

歓迎演奏・演舞会
 シンポジウム初日の8月16日の夜7時から歓迎の演奏・演舞会がホテルの1階会議場で行われました.瀋陽師範大学の演劇学部関係者による中国伝統楽器の合奏と本格的な京劇の独唱や舞踊が披露されました.特に,京劇の祖として知られる梅欄芳の名を冠した,同大梅欄芳芸術研究所の所長である,若き肖迪 教授による「娥嫦奔月」のソプラノ独唱は,圧巻の歌声でした.古生物学部を擁する瀋陽師範大学が,芸術分野でも中国をリードしている底力も感じられるものでした.演奏・演技終了後は舞台での登壇者との記念撮影も行われ,各国からの参加者を歓迎する和やかな雰囲気で幕となりました(写真5).

遼寧古生物博物館見学
 シンポジウム最終日(8/18)午後には,ホテルから北に5.5kmほど行った遼寧師範大学キャンパス正門のすぐ左側にある,遼寧古生物博物館(Paleontological Museum of Liaoning:PMOL) を館長の孫革(Sun Ge)教授の案内で見学しました(写真6).4階建ての巨大な博物館は,遼寧省や中国東北部から産する化石や岩石の逸品が時代別,分類群やテーマ別に8つの展示室に配置されており,非常にユニークなレイアウトの印象的な博物館です.通常は1階から4階まで続く長い階段を上がって,4階から順次下りながら,第1から第8展示室へと見ていく作りになっていました.
 今回は,1階の恐竜の卵を模したドーム型の大型恐竜(第8)展示室と特別(第7)展示室を先に見ました.第8展示室は竜脚類の復元骨格をはじめとして,遼寧省だけでこれだけの大型恐竜が出るのかと思わせる迫力あるものでしたが,第7展示室は別格でした.熱河層群から産した羽毛恐竜(中華竜鳥Sinosauropteryx, 尾羽竜Caudipteryx, 小盗竜Microraptor, 寝竜Mei long),翼竜(遼寧翼竜Liaoningoprerus),鳥類 (孔子鳥Confuciuornis)などの古生物学界で注目された化石の模式標本(一部は複製)が,発表されたNature, Science誌などと一緒に特別展示室に陳列されています.最古の被子植物であるArchaeofructus liaoningensis Sun et al., 1998も同様です.最古の双子葉類として2011年にNatureに載ったLeefructusなどもありました.ジュラ紀中期の最古の羽毛恐竜Anchiornis huxleyi Xu et al., 2009もハイライトの一つです.
 4階から2階までは吹き抜けになっており,4階は第1展示室「遼寧古生物博物館の紹介」と第2 展示室「生物の誕生と進化」,3階は第3 展示室「遼寧古生物30 億年の歴史」と第4 展示室「熱河生物群」,2階は第5 展示室「国際古生物学・世界各地の化石」と第6 展示室「体験展示室」になっていました.熱河生物群の展示では化石の量・種類そしてその保存の良さに圧倒されました.

地質巡検
 シンポジウム終了後の8月19日と20日に野外巡検が行われ,外国人54名,中国人の78名が参加する,大型・小型バス・四駆車1台ずつでの大きな見学会となりました.19日は,瀋陽から西方300?350 km 離れた,北票市,朝陽市の熱河層群と3つの博物館,20日は朝陽市から南西100kmほどにある建昌県の中期ジュラ紀最古の羽毛恐竜(Anchiornis)化石産地に行きました.
 瀋陽市のホテルを出発する際に,2日分の昼食や飲み物が一度に各人に支給されたのには驚きでした.パック入りの搾菜(ざあさい)にパンとヨーグルトなどいかにも中国らしいメニューでした.

(1)北票市四合屯
 19日の最初は,北票(Beipiao)市四合屯(Sihetun)の有名なSinosauropteryx(前期白亜紀)産地を訪れました(写真7).この化石産地は20年来多くの新属新種の羽毛恐竜,原始鳥類などが産し,話題の多い場所です.現在は中国四合屯古生物化石館として,露頭を保護する建物が建ち,地層面や地層断面や間近で観察できます(写真8).熱河(Jehol)層群義県(Yixan)層が緩傾斜で葉理や層理面の発達した泥岩ないし頁岩が露出しており,堆積後に被った続成作用が軽微であったことが分かります(写真9).貝形虫やカイエビ類化石も豊富に含まれており,静穏な環境の湖底に堆積したことがわかります.薄い白色凝灰岩が何枚も含まれており,これが羽毛や軟体部まで残された驚異的な化石の保存の主要因になっていることもわかります.火山活動による火山性二酸化炭素ガスの噴出による窒息死や火山灰による急速埋没など,この地域における特殊な堆積環境が考えられているようです.
 2箇所目はすぐ近くの北票市黄半吉溝(Huanbanjigou)の最古の被子植物化石産地です.突然の激しい風雨のため十分に露頭を観察できませんでしたが,岩相は四合屯と似ていながらも,凝灰岩層の挟在が少ないようでした(写真10).
(2)遼寧朝暘鳥化石国家地質公園
 四合屯から西方30 kmにある朝陽市のこの場所は1920年代から熱河層群の化石の調査が進められてきた有名な産地で,現在は,大規模な地質公園(写真11)として,朝陽古生物博物館,地質回廊,珪化木化石庭園(周辺各地の膨大な珪化木化石を直立させて復元した化石林:写真12)などの施設が充実しています.現在も新しい施設が増設されています.
 圧巻なのは,長さ200m深さ30mほどの巨大なトレンチ化石露頭を覆う地質回廊です(写真13).露頭脇の地層平面には実際に発掘された羽毛恐竜などの化石が現場でアクリル板に覆われて展示されており,化石の産状や密集度がよく観察できます.熱河層群九仏堂(Jiufotan)層の地層断面を解説する柱状図が露頭に原寸で貼り付けられていたのにも驚かされました.
 朝陽古生物化石博物館も1時間半ではとても見切れないほどの標本が展示され,結局植物化石の展示は断念せざるを得ませんでした(写真14).
(3)済贊堂古生物化石博物館
 遼寧朝暘鳥化石国家地質公園から2.5kmほど離れたところの,私設の済贊堂(Jizantang)古生物化石博物館も見学しました(写真15).ここにも朝陽古生物化石博物館にひけを取らない多数の素晴らしい熱河層群化石群が展示され,その多様性や保存の良さに驚かされました.展示は,羽毛恐竜,非羽毛恐竜,カメ,コリストデラ,ワニ,鳥類,両生類,魚類,昆虫,貝形虫,カイエビ,シダ・裸子・被子植物・・・と,多くは板状に割った雄型と雌型がセットになって展示されていました.
 ここでは,魚化石などの入った頁岩が記念品として持ち帰れるように準備されていたため,多くの参加者が熱心に頁岩をハンマーとタガネで板状に割って探していました.いい標本を見つけた方々は大変満足そうでした.
(4)建昌県玲瓏塔鎮の中部ジュラ系湖成層
 8月20日は朝陽市から100 kmほど南西に行った,建昌県玲瓏塔鎮の大西山セクション(髫髻山(Tiaojishan)層)の,中期ジュラ紀の最古の羽毛恐竜Anchiornis huxlei Hu et al., 2009を産出した場所を見学しました.詳細な層序と堆積相層序の調査のため,長さ400mほどのトレンチと露頭面が掘削されており,傾斜が80度ほどで直立する地層の岩相を連続的に見ることができ,Anchiornisが産した湖成葉理頁岩の層準も確認しました(写真16写真17).岩相的には熱河層群とよく似ており,こうした大規模な厚い湖成層が中国東北部ではジュラ紀中期と白亜紀前期と2層準にあることがわかります.Natureの筆頭著者である胡候氏(遼寧師範大)は案内者として,Anchiornisの化石は周辺露頭も含めて,断片的なものも含めるとこれまでに200体ほどの化石が見つかっているという説明をしていました.これらの化石群は,燕遼(Yanliao)動物群と呼ばれ,熱河動物群とは組成も時代も違うことで,ジュラ紀から白亜紀にかけての陸上生態系の変化を示す重要な化石群として知られています.
 この露頭に外国人がこれほど多く訪れるのは初めてで,今回の巡検に向けて,省・地元自治体を挙げて準備の上,近くまで車両が通行できるよう新たに舗装道路が整備されたようです.入口には(写真18)化石産地を示す大きな看板が道路脇に設置されていました.地元の住民が物珍しそうに寄ってきて,携帯の写真撮影をする様子にも驚かされました.


写真1 瀋陽市遼寧大夏ホテルの中庭での記念撮影.  ページ先頭へ戻る


写真2 MTE-12の開会式.左端が安藤教授  ページ先頭へ戻る


写真3 MTE-12の開会式でのIGCPリーダー安藤教授の挨拶.  ページ先頭へ戻る


写真4 セッションM-7のIGCP608ワークショップでの討論の様子.  ページ先頭へ戻る


写真5 歓迎演奏・演舞会終了後に出演者と記念撮影する様子.  ページ先頭へ戻る


写真6 遼寧古生物博物館正面.巨大な歓迎垂れ幕に第28回中国古生物学会(左端)とMTE-12(左から二番目)がある.  ページ先頭へ戻る


写真7 遼寧省北票鳥化石群国家級自然保護区の石碑.  ページ先頭へ戻る


写真8 中国四合屯古生物化石館の内部の露頭展示.  ページ先頭へ戻る


写真9 北票(Beipiao)市四合屯(Sihetun)のSinosauropterx 産地露頭.MTE-12歓迎垂れ幕と旗が飾られている.  ページ先頭へ戻る


写真10 北票市黄半吉溝(Huanbanjigou)のArchaeofructus(遼寧古果)模式産地の珪化木石碑.  ページ先頭へ戻る


写真11 遼寧朝暘鳥化石国家地質公園(朝暘市)の入場門.中央遠方日に朝陽古生物化石博物館の建物が見える.電光掲示板はMTE-12歓迎の字幕.  ページ先頭へ戻る


写真12 博物館の裏手にある珪化木化石林庭園.  ページ先頭へ戻る


写真13 遼寧朝暘鳥化石国家地質公園(朝暘市)内の露頭を屋根で覆った奥行き250mもある巨大な施設(地質回廊).羽毛恐竜などの化石が見つかった現場に保存されており,化石の産状や密集度が良く理解できた.  ページ先頭へ戻る


写真14 朝陽古生物化石博物館の大ホール展示室.正面の竜脚類はLiaoningtitan.背景は復元ジオラマ木彫壁.  ページ先頭へ戻る


写真15 巡検参加者の集合写真(朝暘市済贊堂古生物化石博物館にて).  ページ先頭へ戻る


写真16 国道沿いにある大西山セクション入口の化石産地案内看板.イラストの左端の赫氏近鳥竜がAnchiornisのこと.地元住民が野次馬として多数集まっていた.  ページ先頭へ戻る


写真17 遼寧省西部建昌県の大西山セクションの最初のAnchiornis産地.右上が胡候氏.  ページ先頭へ戻る


写真18 大西山セクション一番奥のAnchiornis化石産地.トウモロコシ畑の中の露頭.  ページ先頭へ戻る

 

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