2018年12月1日:IGCP608第6回国際研究集会(タイ・コンケーン)(11/11-17)が成功裏に開催されました

2018年11月15日(木)-16日(金)に,安藤教授がリーダーを務めるIGCP(地質科学国際研究計画)608 (2013-2017+2018年)の,第6回国際研究集会「白亜紀のアジア−西太平洋地域の生態系システムと環境変動」が,タイ東北部のコンケーン市のチャルン タニ・ホテル (http://www.charoenthanikhonkaen.com/) で行われました.IGCP608は,5年間(2013-2017年)のプロジェクトとして採択されましたが,2018年の年次報告書提出の際に1年の活動延長を申請し,それがIGCP科学委員会の審査の上で2018年3月に承認され,今回の第6回国際研究集会を行うことになりました.

IGCP608 第6回国際シンポジウム実行委員会は,IGCP608のタイの地域リーダーであるNaramase Teerarungsigul 氏(タイ鉱物資源局 DMR: Department of Mineral Resources)を委員長として,Orn-uma Summart 氏(シリントーン博物館館長,DMR)が書記として,第5回国際研究集会に参加したDMRのPradit Nulay博士とPhornphen Chanthasit博士,そしてDMRの職員の多くが携わっており,入念な準備と行き届いた配慮の元で行われました.DMRの先代,現在の局長をはじめとするDMRの執行部,数代前の局長である,CCOP (東・東南アジア地球科学計画調整委員会) 委員長のAdichat Surinkum博士やタイ地質学会名誉会長のNares Sattayarak博士,地元コンケーン県の知事らの支援を受けたことも成功の要因でした.

集会には,11ヶ国約140名以上の参加者があり,タイ式の和やかな雰囲気のもと成功裏に終了しました.国外から37名で,日本からは8名の参加がありました.タイの参加者は100名を越えており,開催地の地元のコンケーン大学やマハサラカム大学からは,教員だけでなく多くの学生も後学のために参加していました.集会の様子についてはIGCP608のウェブサイトのNews欄にも概要が掲載されています.

http://igcp608.sci.ibaraki.ac.jp/index.php?id=92

なお,この報告の一部は,福井県立大学大学院生物資源学研究科生物資源学専攻 古生物学領域の小布施彰太さんに協力を得ています.

日本地質学会地質ニュース(Vol. 22,No. 1,2019年1月末発行)には,別途,小布施さんが投稿された学協会・研究会報告の記事が掲載されます.

 

 

 

国際シンポジウム

 

国際シンポジウムは11月15日(木),16日(金)の2日間に,チャルン タニ・ホテル4階のスリチャン会議場で開催され,口頭発表セッションとポスターセッションが行われました.基調講演5件(各30分),口頭27件(各15分),ポスター14件の発表が行われました.口頭セッションは,アジアー西太平洋域の白亜紀の陸域―海域の環境(Cretaceous Terrestrial and Marine Environments in Asia and the Western Pacific)と アジアー西太平洋域の白亜紀の陸生―海生生態系(Evolution of Cretaceous Terrestrial and Marine Ecosystems in Asia and the Western Pacific)の2つのトピックに分けて進められ,議論および意見交換がなされました.

開会セッションは,コンケーン県の知事の挨拶(写真2)で始められ,安藤教授によるプロジェクトリーダーとしての開会講演(写真3),実行委員長Naramase Teerarungsigul 氏(DMR)の挨拶がありました,記念撮影(写真1)の後,午前中のセッションは,タイ地質学会名誉会長Nares Sattayarak教授,著名な恐竜学者であるMahasarakham大学Varavudh Suteethorn博士の子息で同じく恐竜学者であるSuravech Suteethorn博士,安藤寿男教授,韓国全南大学Min Huh教授らによる基調講演がなされました.それぞれ,タイのKhorat層群の地質と層序,Khorat層群から産出する恐竜化石に関する最新の総括的レビュー,日本における白亜系陸弧海溝系研究の最前線,2018年に新たに認定された韓国の無等山世界ジオパークなどが紹介されました.

午後は「白亜紀の陸域―海域環境」セッションとなり,各国での堆積学,層序学,年代学などの研究成果の発表が行われました.フランスのRomani Amiot博士は,東アジアにおける恐竜やその他爬虫類,哺乳類の骨格化石に含まれる燐灰石の酸素・炭素安定同位体から測定した古気温から,東アジアの陸域古気候を復元した非常に重要な成果を披瀝していました.

夕方のポスターセッションのコアタイム(15日(木) 16〜17時)には,会議場入口脇のポスターブースで,多くの人々が発表者と議論を交わす機会となりました.地元のコンケーン大学やマハサラカム大学の学生も参加しており,積極的に質問する様子がよく見受けられました.学生によるポスター発表もあり,タイの恐竜動物相を代表する竜脚類のPuwiangosaurusの脳エンドキャストを用いた研究など非常に興味深い内容も発表されました.

一方,ポスターセッションは,11月15日の16:00-17:00の1時間で行われました(写真5).

 

2日目は,白亜紀の陸生―海生生態系セッションが行われ,植物化石や軟体動物化石,恐竜を含む脊椎動物化石などの産出報告,生層序,生物相の多様性のレビューなどの発表が行われました.日本からも,平山廉教授による日本における非海成白亜系のカメ化石のレビューや,薗田哲平博士,今井拓哉氏による福井県勝山市より産出したカメ類や鳥類,柴田正輝博士によるKhorat層群より産出した新属新種の鳥脚類の紹介がされました.

閉会セッションでは,安藤教授が6年間のIGCP608の活動を振り返る要約がなされました.そして最後に,IGCP 608を後継する新規プロジェクト提案(10月15日にUNESCO-IGCP事務局に提出)の筆頭リーダーである,Gang Li(李罡)教授(中国科学院南京地質古生物研)により,プロジェクト提案の概要が紹介され,2日間のシンポジウムが締めくくられました.

 

安藤教授の基調講演

11月15日(木) 11:00-12:00

  Hisao Ando and Masaki Takahashi, Significance of Cretaceous strata in the Japanese Islands: Cretaceous continental arc–trench system.

 

シンポジウムの発表要旨集はIGCP608のWebsiteからダウンロードできます.

http://igcp608.sci.ibaraki.ac.jp/assets/files/ProcSymp_IGCP608_6th_Thai_2018.pdf

 

 

ビジネス・ミーティング

 

11月16日(金)の夕方には,ビジネス・ミーティングとして,各国代表者会議が4階のケン・ナコンの間において行われ,(1) 2018年の活動の総括とまとめ,(2) 第6回研究集会の参加者数と論文集出版の方針,(3)年度報告書のとりまとめ,(4) 新期プロジェクト提案について確認・審議されました.

 

プレ・シンポジウム地質巡検

 

11月12日(月)~14日(水)の3日間で行われ,11月11日(日)の夕方にコンケーン空港近くののRachawadee リゾートホテルに集合し,翌12日(月)朝に出発しました.タイ北東部(現地ではイサン地域と呼ばれる)に分布する前期−後期白亜紀の非海成Khorat層群について,代表的な陸成の岩相や堆積相,恐竜骨格層,恐竜足跡化石層,そして2つの恐竜博物館の8ヶ所を巡って,右回りに一周し,コンケーンのチャルン タニ・ホテルに戻ってくる行程でした.

巡検案内書については下記のサイトでダウンロードできます.

http://igcp608.sci.ibaraki.ac.jp/index.php?id=6#ABSTRACTS%20&%20FIELD%20GUIDE%20OF%20INTERNATIONAL%20MEETINGS

http://igcp608.sci.ibaraki.ac.jp/assets/files/Guidebook_IGCP608_6th_Thai_2018.pdf

 

一日目:11月12日(月)

Stop 1 Khon Kaen県Phu Wiang国立公園の恐竜化石の発掘サイトNo. 3

 1976年にDMRとフランスの調査チームによって,タイで初めての恐竜化石として竜脚類の大腿骨の一部が発見され,その後の発掘で新たな恐竜化石の発見が相次ぎ,現在ではPhuwiangosaurus sirindhornaeを含む4種の新属新種の恐竜がSao Khua層から報告されている.発掘サイトNo. 3は露頭を展示施設として保存されており,間近で観察することができました.

 

Stop 2 Phu Wiang公園内のPhu Wiang恐竜博物館および化石研究所(および昼食)(写真6,7)

 Sao Khua層から見つかっている恐竜化石はPhu Wiang恐竜博物館に展示されており,Khorat層群から見つかる各種の脊椎動物標本も充実していました.研究所のバックヤードに収蔵されている国内各地で産出した豊富な標本も見学でき,参加者は各々観察,議論に熱が入っていました.

 

Stop 3 Khorat層群Phra Wihan層およびSao Khua層境界付近の岩相変化 (写真8)

 ノーンブワラムプー市の東部丘陵を横切る国道に沿った法面(Luang Pho Pu Lup寺院の入口前)を訪れ,Khorat層群を観察しました.北東方向にわずかに傾斜しており,西南の露頭ではPhra Wihan層が露出していますが,北東100mには上位のSao Khua層が露出していました.両層の境界は道路で覆われているため,直接観察することはできませんでしたが,Phra Wihan層の薄灰色砂岩とSao Khua層の赤茶色泥岩の堆積相の違いは顕著でした.両層の差異は堆積相の大きな変化として理解されており,前者が網状河川,後者が蛇行河川が卓越する堆積環境と考えられ,湿潤から乾燥への気候変化を反映したものと想定されていました.

 

二日目:11月13日(火)

Stop 4 Phu Thok寺院のKhorat層群Phu Thok層

 Khorat盆地北東部には,南東に流下するメコン川と平行な背斜軸が存在し,Phu Thok寺院はその南東端に位置する隔離された高さ200mほどの卓状の丘陵(残丘)となっていました.その切り立った絶崖にはKhorat層群最上部のPhu Thok層が露出し,“sky bridge”と呼ばれる木造の通路で上へ登っていくと,リップルマークやマッドクラックなどの様々な陸成の堆積構造が観察できました.中でも層厚10mに及ぶような大規模な一方向の平板型斜交層理がよく発達し,高角度の風成斜交層理が何層準にもわたって累重する様子は圧巻でした.

 

Stop 5 Khok Kruat層の恐竜足跡化石サイト(写真9)

 Nakhon Phanom県のメコン川にほど近い国道沿いのStop5では,Khok Kruat層の砂岩層中に,挟在する薄い泥岩層が風化して侵食されることで下位の砂岩上面が広く露出し,そこに恐竜足跡化石が多数含まれる恐竜足跡化石サイトを訪れました.層理面はほぼ水平で,リップルが卓越する領域で分けられた2カ所の広い範囲に足跡が集中していました.この露頭はKozu et al. (2017) で詳細な足跡・行跡の見取り図が報告された場所で,合計600個を越える足印が確認されています,その大半は獣脚類のものでしたが,一部鳥脚類やワニ類のものと思われる足跡も見つかっています.獣脚類の足跡は,中国や日本で見つかる足跡属Asianopodusに類似するが,比較すると全体にサイズが小さいといいます.また,それらの多くは行跡をなしており,合計79の行跡が確認されています.恐竜やワニが闊歩した1.1-1.2億年前の堆積面は,この巡検のハイライトの一つでした.

 

Kozu, Shohei, Apsorn Sardsud, Doungrutai Saesaengseerung, Cherdchan Pothichaiya, Sachiko Agematsu and Katsuo Sashida, 2017, Dinosaur footprint assemblage from the Lower Cretaceous Khok Kruat Formation, Khorat Group, northeastern Thailand. Geoscience Frontiers, 8, 1479e1493

 二日目の夕方は,観光としてメコン川のサンセットクルーズを楽しみました.国境をなす雄大なメコン川を挟んで,タイ側に日没するNakhon Phanomの町のシルエットと,隣国ラオス側の夕日に照らされた山稜の前に続く,対岸の農村の寂しい家並みは印象的で,忘れ難い一時でした.

その後,メコン川にそって遊歩道と商店街が続くNakhon Phanomの中心街を散策しました(写真10).夕日と人工照明に照らされて輝く岸辺の大きなナーガ(インド神話に由来する蛇神)像が非常に情景的でした.金色に輝くPho Sri寺も印象的でした.

 

11月14日(水)

Stop 6 Phra That Phanom寺を訪れ拝観(写真11)

 Wat Phra That Phanomは,タイ北東部でよく見られる,高い尖塔を中心に多くの堂が並ぶ,Nakhon Phanom県最大の大寺院です.タイの仏教寺院を特徴付ける,煌びやかな黄金の装飾が圧巻で,広い敷地の内外には土産屋や屋台なども多く,大変賑やかでした.地元の参拝客も多く,タイの人々の信仰心の厚さを感じるものでした.

 

Stop 7 Phuphayol国立公園でKhorat層群Phu Phan層の礫質砂岩層を観察

 75 kmほど西に行った,Sakon Nakhon県Phuphayol国立公園内のHuai Huat貯水池沿いでは,Phu Phan層の礫質砂岩層を観察しました.礫は全体的に淘汰の悪い石英,チャート,砂岩,そして火成岩岩片からなり,斜交層理の傾斜方向から西および南西の古流向が想定され,礫の供給源が北東のラオス側に推定されているとの紹介がありました.露頭の貯水池を挟んだ反対側の池沿いには段丘崖の上から流れる高さ10m弱の滝もあり,遊歩道も整備されていました.ここでは,屋外での昼食が振る舞われました.(写真12)

 

Stop 8 Kalasin県のSirindhorn博物館(写真13)

  Kalasin県に移動し,最後の見学地である,タイ最大の恐竜博物館,Sirindhorn博物館を訪問しました.初めに博物館に併設されたPhu Kum Khao恐竜発掘サイトを見学しました.大型骨格化石層露頭そのものを展示施設にしたもので,ほぼ完全な間接状態のPhuwiangosaurus sirindhornaeが死後硬直したような湾曲姿勢をしているのには驚かされました.

 2008年にSirindhorn王女を迎えて開館した博物館も素晴らしい展示に溢れ,タイ産の恐竜などが展示された大ホールを中心に,地球の始まりから先カンブリア時代,古生代,そして中生代の恐竜時代,新生代の哺乳類時代へと生物進化を辿っていく教育的な構成となっていました.ここでもバックヤードを見学し,国内各地から産出する膨大な数の恐竜骨格標本が,巨大な収蔵庫に収められているのには,圧倒されました.福井県立恐竜博物館との交流も盛んで,研究ばかりでなく,展示・収蔵標本の借用展示プログラムも積極的に行っており,この数年,何度もタイの恐竜標本が,福井県立恐竜博物の特別展に出展されている理由がわかったような気がしました.恐竜以外にも,ワニ類,カメ類,淡水ザメ類に大型淡水魚なども見ることができ,Khorat層群の多様な陸生脊椎動物相を実感することができ,充実した巡検を終えることができました.

 

 博物館見学のあと,夕食は博物館から近い地元集落の住民から,DinoRoadと呼ばれた集落の中心街で歓迎夕食会のおもてなしをいただいた.歓迎の儀式では,長文の祝詞が暗唱された後,友好の契りを表す糸を住民と来客が片腕に巻くものでした.写真14は安藤がグループを代表して最初に集落の長から施してもらっている様子です.食事の終わりにはイルミネーションが施された舞台でとその周りで地元の子どもによる踊りが披露されました.最後に皆で円陣を組んで踊り回る楽しい宴となりました.

 


写真1 IGCP608第6回国際シンポジウム開会セッションでの集合記念撮影(11/15午前)


写真2 IGCP608第6回国際シンポジウム開会セッション (11/15午前;左:大会委員長のNaramase Teerarungsigul 氏;中央:コンケーン県知事;右:安藤)


写真3 IGCP608第6回国際シンポジウム開会セッションでの安藤の挨拶(11/15午前)


写真4 IGCP608第6回国際シンポジウム受付脇での記念撮影(11/15午前)


写真5 ポスターセッション会場 チャルン タニ・ホテル4階のスリチャン会議場(11/15午後)


写真6 地質巡検1日目(11/12午前) Stop 2のPhu Wiang恐竜博物館玄関での集合記念撮影


写真7 巡検1日目(11/12午前) Stop 2: Phu Wiang恐竜博物館前の恐竜モニュメント


写真8 巡検1日目(11/12午後) Stop 3: Chao Pu LupのKhrat層群 Phra Wihan層-Sao Khua層境界露頭


写真9 巡検2日目(11/13午後) Stop 5: Nakhon Phanom県Bao Lao Had地域の恐竜足跡サイト施設


写真10 巡検2日目(11/13夜) Nakhon Phanom市街メコン川沿い遊歩道のモニュメント


写真11 巡検3日目(11/14午前) Stop 6: Nakhon Phanom 県Phra That Phanom寺入口前広場での集合記念撮影


写真12 巡検3日目(11/14昼) Stop 7: Phu Pha Yol 国立公園の施設での屋外ケータリング昼食


写真13 巡検3日目(11/14午後) Stop 8: Sirindhorn博物館恐竜展示室.後の恐竜は,かつてティラノサウルスの祖先に近いとされたSiamotyrannus isanensis で,現在はアロサウルスに近い仲間にされている.


写真14 巡検3日目(11/14夜) 歓迎夕食会 博物館の地元集落の中心街DinoRoadでの住民による歓迎セレモニー:リーダーの安藤が交流の絆を表す糸を腕に巻いてもらっている儀式.


写真15 集会最終日(11/16夜) コンケーン市内のマーケットでの屋外夕食.韓国とタイのメンバーと思い出のショット

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