2020年7月10日:プレスリリース「茨城県五浦に幻の巨大油ガス田―天然ガスが築いた世界最大級の層状炭酸塩コンクリーション」が新聞に紹介されました

この度,北茨城市五浦海岸の炭酸塩コンクリーションの成因に関する共同研究の論文が国際学術誌(Marine and Petroleum Geology)に出版されたことに際し,北海道大学・茨城大学の共同で「茨城県五浦に幻の巨大油ガス田―天然ガスが築いた世界最大級の層状炭酸塩コンクリーション」と題するプレスリリースが,7月8日に公表されました.

https://www.ibaraki.ac.jp/news/2020/07/08010886.html

https://www.hokudai.ac.jp/news/2020/07/post-697.html

この内容は,茨城新聞の7月9日(木)朝刊の1面トップ記事として大きく紹介されました.
https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=15942086945763
同日の読売新聞の茨城版にも詳しく紹介されています.
また,7月10日(金)朝刊の日本経済新聞北関東版にも紹介されました.
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61351080Z00C20A7L60000/
7月15日(水)の東京新聞茨城版には,炭酸塩コンクリーションの成因が模式図とともに詳しく解説されました.
なお,この記事は8月26日(水)に東京新聞のTokyo Webに掲載されました.
https://www.tokyo-np.co.jp/article/51210

また,7月14日(火)の日刊工業新聞23面にも紹介されています.

さらに,7月14日(火)にはNHK水戸放送局のいば6(午後6時10分〜7時)で2分弱にわたって五浦海岸の現地取材映像で紹介されました.
https://www3.nhk.or.jp/lnews/mito/20200714/1070010115.html

そして,8月24日(水)の水戸経済新聞(インターネット情報配信サービス)にも五浦海岸の写真付きで紹介されました..
https://mito.keizai.biz/headline/1552/

この論文は,北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門 地球惑星システム科学分野の鈴木徳行 名誉教授との共同研究として行われた研究成果が,Elsevier 社が発行するMarine and Petroleum Geologyという海洋地質学や石油地質学をカバーする国際学術誌に出版されたものです.

小さな5つの内湾(浦)が南北に並ぶ五浦(いづら)海岸では,新生代新第三紀中新世前期の地層である九面(ここづら)層(1670-1640万年前)に様々な形やサイズの炭酸塩コンクリーション(石灰質団塊とも)が含まれています.コンクリーションが非常に堅固であるのに対し,周りの岩石(主に砂岩)は軟らかいために,波の侵食 (波食) に対する抵抗性が異なることで,差別的な波食を受けて複雑な海食崖地形ができています.六角堂の北側の湾には,塊状,球状,筒状,層状などの炭酸塩コンクリーションが,ゴツゴツした突出部として残り,奇岩景観を作り出しています.
その概要は上田ほか(2005)で初めて明らかにされました.その後,六角堂の北側にある大五浦からは体長10mは越えると予想される巨大ザメ(カルカロドン・メガロドン)の歯化石が大量に産出しています(国府田ほか,2007).そして,コンクリーションやその周囲の砂岩には,化学合成二枚貝群集(ツキガイモドキ,シロウリガイ,キヌタレガイ,オウナガイなど)が多産し,一部は密集していることも報告されました(Amano and Ando, 2011).こうした,五浦海岸の特徴を解説した安藤(2011)はWikipediaでも紹介されています.

こうした一連の研究の中で,五浦海岸のコンクリーションは,海底下深くからメタンガスを大量に含む冷水が湧出する海底面に近い海底下で,メタンの化学エネルギーを利用して繁殖する化学合成細菌(古細菌とも,アーケアともいう)がもたらす化学変化で炭酸カルシウムが沈着し,もともとは比較的均質だった砂岩中に硬いコンクリーション(いわば海底下の浅い所にできる天然のコンクリートの塊)が不規則に作られたもの,とわかったのです.しかし,海底下から湧出するメタンの起源や成因は不明のままでした.

2010年3月に茨城大学で開催された日本堆積学会の地質巡検では,安藤が五浦海岸ほかを案内しました.その際,五浦海岸の地質学的な重要性を直感された北海道大学の鈴木徳行教授(当時)から,共同研究の申し入れがあり,その後,北海道大学鈴木研究室の二人の博士前期課程の大学院学生(前山大地さんと數川恵輔さん)が調査を開始し,修士論文としてまとめあげました.

今回の研究は,まず,五浦海岸だけではなく,周辺に広く分布している炭酸塩コンクリーションから多数の試料を採取し,野外観察や光学顕微鏡観察による堆積岩石学的な特徴を明らかにしました.そして,炭酸塩コンクリーション中に残留している微量なガス成分(水素,メタン,エタン,プロパン,二酸化炭素など)の含有量や炭素・水素同位体組成,そして炭酸塩の炭素・酸素同位体組成,嫌気的メタン酸化アーキア(古細菌)由来のバイオマーカー(生物指標化合物)分析などの,有機地球化学的分析結果から,メタンの由来や成因を明らかにしました.
さらにメタンが湧出した時期が,日本海の拡大という大規模な地質学的イベントに関連したある時期に,ケロジェン(石油天然ガスの先駆有機物)を多く含む海成の地層(おそらく白亜紀:1億〜7000万年前)が地下深くで有機物の熱分解を受けて,主にメタンガスとして大量に漏れ出したものと推測されました.炭酸塩コンクリーションの体積が少なくとも600万m3以上と見積もられることから,この炭酸塩コンクリーション中の炭素のほとんどがメタンガスに由来するとすれば,約73億m3以上のメタンガスが化学変化してコンクリーションが形成されたことになります.実際には,メタンガスの多くは海水中に拡散したり,コンクリーションも相当量が侵食で既に消失しているので,湧出したメタンガスは遙かに膨大であったと推測されます.

これまでの研究からは,五浦の炭酸塩コンクリーションの体積は世界最大級で,膨大なメタンガス(天然ガスの主成分)をもたらした巨大ガス田(可採埋蔵量950億m3以上のガス田)に匹敵する「五浦油ガス田」が約1650万年前にあったことが示唆されます.そして,ガス成分から,茨城沖の太平洋下に存在すると予想される白亜紀の海成層由来であることも推測できました.日本の油ガス田の殆どは古第三紀の陸成層や新第三紀の海成層由来であるため,白亜紀のような古い 地層からのものは新しいタイプとなります.
現在,石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC) が所有する新しい三次元物理探査船「しげん」によって,日本周辺海域の海底下の資源探査が進められており,茨城沖を含む東北日本の太平洋沖は重要な調査対象海域とされているため,今後の進展が期待されます.

出版論文

Daichi Maeyama, Noriyuki Suzuki, Keisuke Kazukawa and Hisapo Ando, in press, Residual gas in extensive stratified Miocene Izura carbonate concretions exhibiting thermogenic origin and isotopic fractionation associated with carbonate precipitation. Marine and Petroleum Geology.
DOI:10.1016/j.marpetgeo.2020.104466
(前山大地・鈴木德行・數川恵輔・安藤寿男,2020,広大で層状の中新世五浦炭酸塩コンクリーション中の残留ガスが示す熱分解起源と炭酸塩析出に伴う同位体分別)

 

引用文献

上田庸平・ジェンキンズ,ロバート・G・安藤寿男・横山芳春,2005,常磐堆積盆外側陸棚におけるメタン起源の炭酸塩コンクリーションと化学合成群集:茨城県北部中新統高久層群九面層の例.化石, no. 78, 47-58.

Amano, K. and Ando, H., 2011, Giant fossil Acharax (Bivalvia, Solemyidae) from the Miocene of Japan. Nautilus. 125 (4), 207-212.

国府田良樹・小池 渉・安藤寿男・上野輝彌・碓井和幸,2007,茨城県北茨城市の中新統高久層群九面層の炭酸塩コンクリーションより産出したCarcharodon megalodon歯群.化石, no. 81, 1-2.

安藤寿男,2011,五浦海岸六角堂の海食地形と炭酸塩コンクリーション―天心や大観が見た風景の地質学的背景.五浦論叢(茨城大学五浦美術研究所紀要), 18, 3-19.

 

 

 

茨城大学五浦美術研究所内にある天心記念館にはこの炭酸塩コンクリーションの岩石標本(化学合成二枚貝群集の化石を包含)が展示され,パネル(下記pdf)で解説されています.

 


炭酸塩コンクリーションの岩石標本展示の様子

天心記念館_解説パネル_五浦海岸_A1_奇岩景観.pdf

天心記念館_解説パネル_五浦海岸_A1_奇岩の成り立ち.pdf

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