2021年9月7-11日:地球環境科学コース3,4年専門科目 「地球科学巡検I」 を北海道中央部で実施

2021年9月7日〜9月11日の日程で,理学部地球環境科学コースの3,4年専門科目の「地球科学巡検I」を安藤教授が担当し, 5日間で北海道中央部の苫小牧市-夕張市-三笠市-厚真町にかけての地域で実施しました.これにはT.A.として博士前期課程の大森光(安藤研究室)と小柴理人(小荒井研究室)に加えて,3,4年生28名が参加しました. 主な見学内容は以下の通りです.

1)北海道中軸部(空知-蝦夷帯)の夕張山地における地形と地質
2)北海道中軸部(空知-蝦夷帯)の白亜系〜新第三系の堆積岩と層序
蝦夷層群(白亜紀〜古第三紀暁新世)の堆積相と多様な化石群(アンモナイト,二枚貝など)
石狩層群(古第三紀始新世の含石炭層)
幌内(ぽろない)層群(古第三紀漸新世の海成層)
滝の上層(新第三紀中新世前期の海成層)
川端層(新第三紀中新世中期の厚層タービダイト層)
3)ダム地質(夕張シューパロダム,新桂沢ダム)
4)北海道胆振(いぶり)東部地震の斜面災害と地すべり地形
5)エネルギー資源と地下地質
勇払油ガス田
苫⼩牧二酸化炭素地下貯留施設(CCS)実証試験センター)

1日目の見学は,苫小牧港の工業地帯にある2つの施設から始まりましたが,残念ながら屋外から施設の全景を眺めながら,解説資料を参考に地下地質や施設概要の学習となりました(写真1).

夕張市滝の上では,北海道地質百選の一つでもある滝の上公園千鳥の滝の代わりに,草木舞沢川の道央道下の大露頭で,中新統中部の川端層の砂岩泥岩互層(タービダイト)を見学しました.古日本弧に古千島弧が衝突する前の1500〜900万年前に形成された前陸堆積盆(石狩海盆)を埋積した非常に厚い砂質堆積物です(写真2).

午後の後半は,夕張市紅葉山の夕張川河床で,古第三紀漸新世の海成層である幌内層群幌内層,紅葉山層),中新世前期の滝の上層の層相と層序関係を見学しました.紅葉山層上部の泥岩相に含まれる中礫(コブシ大)サイズの石灰質コンクリーションには,保存が悪いながら二枚貝や巻貝が含まれており,化石採集の時間となりました(写真3)

2日目は午前に,竣工して6年目となる貯水量日本第4位の夕張シューパロダムを見学しました(写真4).ここではダム周辺に露出する白亜系蝦夷層群函淵層とそれを不整合に覆う古第三系石狩層群登川層の露頭も観察しました(写真5).登川層では石炭層が含まれている産状も見ることができました.

午後は雨天となりましたが,地元の化石採集家の協力も得て,白亜紀中期セノマニアン/チューロニアン境界の海洋無酸素事変(OAE: oceanic anoxic event)の相当層準(9400万年前)が露出している,大夕張白金沢川の蝦夷層群佐久層の泥岩相を見に行きました(写真6).

3日目は晴天に恵まれ,白亜系蝦夷層群がつくる幾春別背斜構造を横切る奔別川と幾春別川沿いで三笠層の層序と堆積相と化石相をテーマに見学しました.
午前中は幾春別背斜西翼側にある奔別川に連続露出する三笠層の最下部〜最上部の堆積相と層序を観察しました(写真7,8).

三笠市立博物館前の広場で昼食を取った後,午後は新桂沢ダムの原石山,ダム堤体を見学しました.原石山は採石作業が既に終了していますが,まだ数ヶ月しか経っていない新鮮な掘削法面は超巨大で圧巻でした(写真9).三笠層上部の岩相を観察し,三角貝(トリゴニア)を代表とする二枚貝化石のレンズ状密集層が何枚も含まれているのが観察できました.
新桂沢ダムの堤体は既に完成していますが,既存のダムを使用しながら嵩上げ工事をした,日本で初めての工事として注目されています(写真10).

午後の最後に,原石山の反対側にあたる,幾春別川左岸の道道116号の覆道上にある,三笠層の砂岩層中の化石密集層で化石採集をしました(写真11).

最終日となった4日目は,田近 淳さん((株)ドーコン,元北海道立地質研究所 地域地質部長),重野聖之さん (明治コンサルタント(株),茨城大学理工学研究科博士後期課程2013年修了, 安藤研究室OB),清水順二さん(ジオプラ(株),茨城大学理学部地球科学科岩石鉱物学分野90年代半ば卒業),それに西野佑紀さん(明治コンサルタント(株),茨城大学理工学研究科博士前期課程2018年修了,2015年北海道巡検参加)が案内役を務めてくれました.2018年の北海道胆振東部地震で大規模な斜面災害を被った厚真町を中心に5ヶ所を巡って見学しました.
斜面災害の大きな原因となった表層の火山灰層がよく露出する大露頭で,樽間火山や支笏カルデラの火山灰とその層序を間近で観察しました(写真12, 13).
圧巻であったのは,厚真川支流の日高幌内川上流で生じた大規模岩盤すべり地帯でした(写真14).3年経っても倒木や地すべりブロックがそのまま残っていました.

今回の巡検は,大変厳しい状況の中で細心の注意や対策をした上で,野外見学を中心とした実施となりました.宿舎での夕食後のミーティングでも,ホテルの大きなホールで行いました(写真15).半日は雨で大変でしたがそれ以外は天候にも恵まれ,特に支障もなく安全に終えることができました.現地の施設関係者,協力者や案内者,そして,参加学生の協力のたまものであったでしょう.

引率責任者の安藤の現役最後の巡検として,1993年以来3年ごとに実施してきた11回目となる巡検でした.最後まで無事故で実施できたことが,奇跡的とも思えてしまいます.これまで,合計約260名の学生が北海道まで遠征して,北海道の自然や地質を満喫してくれたことになります.現地案内を引き受けてくれた講師,見学先の関係者や協力者,ボランティアで手伝ってくれた北海道を調査域にする研究室の学生,TAとして手伝ってくれた大学院学生,飛び入りのOBなど,数多くの方々が携わってくれました.

 


写真1 日本CCS二酸化炭素貯留実証試験施設(左端の銀色の塔が二酸化炭素分離・回収プラント)前の海浜砂丘で全景を見て,地下地質の概要を学習.後方の石油タンクは出光興産北海道製油所.赤白の煙突は北海道電力苫小牧発電所.苫小牧市

 


写真2 中新統中部川端層の砂岩卓越の砂岩泥岩互層(砂質タービダイト:混濁流による重力流堆積物).夕張市滝の上草木舞沢川

 


写真3 夕張川河床の連続露頭で,古第三紀漸新世幌内層群の幌内層,紅葉山層,それに不整合でかさなる中新世前期の滝の上層の層相と層序関係を見学.夕張市紅葉山

 


写真4 夕張シューパロダム堤体中央の展望台でダム管理所職員からダムや貯水池の機能や特徴の説明を受ける.白亜系蝦夷層群函淵層の砂岩卓越層が差別浸食で峰と峡谷になった地形に立地.夕張市南部

 


写真5 夕張シューパロダム堤体直下右岸に露出する白亜系-古第三系不整合.逆転した蝦夷層群函淵層(右半分)と古第三系石狩層群登川層(左半分)が不整合で重なる.黒色部は石炭層.

 


写真6 白金沢川中流の蝦夷層群佐久層の泥岩相.夕張市大夕張.中央の暗灰色部が白亜紀中期セノマニアン/チューロニアン境界の海洋無酸素事変(OAE: oceanic anoxic event)の相当層準(9400万年前

 


写真7 奔別川沿いの白亜系蝦夷層群三笠層最下部の砂岩泥岩互層(タービダイト砂岩)の観察から柱状図を作成中.三笠市幾春別

 


写真8 奔別川沿いの白亜系蝦夷層群三笠層下部の浅海成砂岩(ハンモック状斜交層理左岸)の観察中.三笠市幾春別

 


写真9 新桂沢ダムの原石山(骨材の砕石場).白亜系蝦夷層群三笠層の巨大露頭.三笠層の浅海成砂岩を堤体の骨材として利用.三笠市桂沢

 


写真10 新桂沢ダム堤体左岸の展望所でダム建設事業所の職員から,ダム仕様や建設経緯の説明をうける.三笠市桂沢

 


写真11 幾春別川左岸の道道116号覆道上の露頭下部のガレ場.白亜系蝦夷層群三笠層下部の浅海生軟体動物(貝)化石層.三笠市桂沢

 


写真12 胆振東部地域の丘陵地帯の植生・土壌下に厚く堆積した支笏-恵庭岳-樽前火山灰層.案内者は左から,田近 淳さん,安藤,清水順二さん,重野聖之さん.安平町早来

 


写真13 基盤の萌別層(後期中新世)の上の古地形面の起伏にそって堆積した,支笏-恵庭岳-樽前火山灰層.参加者全員が露頭上部に上がって観察.この厚い火山灰層が北海道胆振東部地震で大規模に崩落.安平町早来

 


写真14 大規模岩盤すべり地帯.乱雑にブロックが崩壊し,植生が崩落し地肌が露出し,倒木が至る所に散在.厚真川支流日高幌内川上流

 


写真15 夕食後の,復習・まとめと予習のためのミーティング.三笠市岡山 太古の湯スパリゾート HOTEL TAIKO

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