2011年12月15日:五浦海岸の炭酸塩コンクリーションから産した世界最大のキヌタレガイ化石の記載論文が出版

2011年12月15日

安藤教授と上越教育大学の天野和孝先生が共同研究として進めていた,茨城県北茨城市五浦海岸の新第三紀前期中新世の高久(たかく)層群九面(ここづら)層から産した,世界最大のスエヒロキヌタレガイ(Achalax)化石の記載論文が出版されました(論文 A40).

写真1.北茨城市五浦海岸の下部中新統最上部高久層群九面層から産した炭酸塩コンクリーションブロック中に含まれる化学合成群集.シロウリガイ(Adulomya)密集部.

 この化石は,五浦観光ホテル別館(大五浦北岸)建設の際に掘り出された,砂質石灰岩のブロックに含まれていたものです.このブロックは,九面層の砂岩が堆積する際,海底下からメタンガスを大量に含む冷湧水が上昇してきたため,砂の粒子間隙に炭酸カルシウムが沈着し,不規則な形をした固い塊(炭酸塩コンクリーション)になったものです.海底下で形成された自然のコンクリートとも言えます.

 炭酸塩コンクリーション中には,貝化石の密集部がいくつもあり,比較的散在した部分もあります.貝化石は,シロウリガイ(Adulomya sp.など)が最も多く(写真1),スエヒロキヌタレガイ(Acharax yokosukensis),ツキガイモドキ(Lucinoma acutilineatum),オウナガイ(Conchocele bisecta),ニッポンスエモノガイ(Nipponothracia? sp.)といった化学合成細菌共生二枚貝が大半です.タマガイ(Cryptonatica clausa)やMegasulcula yokoyamaiといった捕食性の巻貝も含まれます.

写真2.世界最大のスエヒロキヌタレガイ(Acharax yokosukensis)(左)とニッポンスエモノガイ(Nipponothracia? sp.)大型個体の破片(右).下の黄緑はブラスチック模型.スエヒロキヌタレガイの下に,オウナガイ(Conchocele bisecta)の合弁個体が一部露出している.

 スエヒロキヌタレガイは不完全ながら殻長約30cmに達する個体が得られました.これは,今のところ世界で最も大きなスエヒロキヌタレガイの標本です(写真2).こうした大型のスエヒロキヌタレガイの産出記録は「中新世気候最高温暖期」の層準に限定されています.

写真3.スエヒロキヌタレガイ(Acharax yokosukensis)の合弁個体(左上)と生痕密集部(右半分.

 

写真4.大型の水平性ネットワーク型棲管(Thalassinoides)生痕化石密集部

 

 約1650万年前の五浦海岸地域では,亜熱帯気候にあって,太平洋に面した水深約30〜100mの浅海砂底域にメタンガスを含む冷湧水が大量に上昇して,化学合成細菌共生二枚貝群集のコロニーが発達していたのです.コンクリーションには,甲殻類によって形成されたと思われる,大型の水平性ネットワーク型棲管(Thalassinoides)が密集する部分もあります(写真3,4).共産する貝化石の組成や岩相を考慮すると,これまで報告されている化学合成群集を含む炭酸塩コンクリーションの中では,最も浅海の堆積環境であった可能性が指摘されます.

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